厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で、全数調査をすべきところをサンプル調査に代えて補正を行っていなかったということが問題になっていることから、各統計調査の調査方法を確認する作業を始めたが、今回は「毎月勤労統計調査」と似たような調査を国税庁が実施しているので、こちらの調査方法について確認しておきたい。統計調査名は「民間給与実態統計調査」である。
この調査の目的は民間企業(事業所)の給与の実態を明らかにしようとするもので、税金を徴収するために国民の給料を把握する重要な調査となっている。この調査の特色は、従業員1人から5000人以上まで幅広く、給与階級別、性別、年齢階層別、勤続年数別、企業規模別に給与の実態が分かる。このため様々な分野で高く評価されている調査でもある。
【歴史】
昭和24年(1949年)分から始まり、以後毎年実施している。平成20年(2008年)分の調査からは基幹統計とされている
【調査対象】
源泉徴収義務者(民間の事業所に限る)に勤務している給与所得者が対象である。つまり民間の会社に勤めている従業員のことである。
【抽出方法】
この調査は全数調査ではない。国税庁が作成する源泉徴収義務者名簿から企業等(源泉徴収義務者)を抽出し、その企業の従業員の中からサンプル(従業員)を抽出する2段抽出法を採用している。具体的には以下の通り。
(1) 第1段抽出
従業員の数などによって層を分けて企業(事業所)を抽出する。
(2) 第2段抽出
抽出された企業では、自社の給与台帳を基に社員(給与所得者)を抽出して調査を実施する。なお(1)も(2)も一定の抽出率でサンプルを抽出している。また年間給与額が2,000万円を超える者は全数を抽出している。
【調査時期】
各年12月31日現在。
【調査方法】
調査票は次の流れで事業所に送られ、記入後は逆に戻って来る。
国税庁→国税局(所)→民間委託業者→標本事業所(調査票は事業所が記入する)
オンライン調査システムを利用した回答も可能で回答率は次の通り。
平成28年(2016年)分 17.6%
平成29年(2017年)分 29.2%
【集計方法】
回答が得られた数値(非回答及び一部非回答除く。)の集計結果に、回答率(有効回答数/母集団数)の逆数を乗じて全体の推計を行っている。
以上、国税庁の「民間給与実態統計調査」の調査方法を見てきたが、こちらの調査も標本調査である。回答事業所は2万、回答給与所得者は30万以上と大規模な調査である。これだけ規模が大きいと信頼度も高いだろうが、標本調査という性格上、恣意的な不正の可能性もゼロにはできない。ただ税金を徴収する目的があるため大規模な不正は難しいだろう。