5.東京オリンピック1964年~バブル経済崩壊1991年

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続いて1964年の東京オリンピックからバブル経済崩壊の1991年までを同じように追って行きたい。

○消費者の動向

消費者は米国の生活に近づこうと様々な耐久消費財を購入している。同時に企業も消費者ニーズに応じた製品の投入を着々と進めていた。1953年に国産第一号の白黒テレビが登場してから15年足らずでほぼ100%の世帯に普及した。そして100%に達しようとする数年前からメーカーは新たにカラーテレビを投入し始めた。そして8年あまりでカラーテレビは白黒テレビの普及率を越えるのである。業界としてもテレビの代替をうまく進めることができたと言えよう。

一方、東京オリンピックの年にはたった6%しかなかった乗用車の普及率だが、その後右肩上がりに一直線に普及していった。家庭用のルームエアコンも同様で、乗用車より若干遅れてはいるものの同じように右肩上がりで普及している。

5-1_shuyoutaikyu1965-1991 [グラフ:消費動向調査(全国月次、平成16年4月調査より)結果 主要耐久消費財等の普及率(全世帯)(平成16年3月末現在)より作成]

消費支出を見ると1965年から1991年の間に急激に伸びたのはグラフからも明らかである。とくに1970年に入ってからの伸びは激しい。もちろんこの間の消費者物価指数も同じような急激な伸びを示しているので、金額ベースでは伸びているものの、数量ベースで伸びているとはこのデータからは明らかにはならない。つまり簡単に言うと、昨年家族全員で1回だけ外食して2万円を支出した。今年は家族全員で3万円で外食した。しかし回数は昨年同様1回だった。物価上昇で支出額は上がったが、回数は同じということがある。このことを念頭に入れてデータを見てもらいたい。後ほど消費者物価指数推移のグラフを掲載する。

さて、このグラフを見ると食料費とその他の消費支出が突出して大きいのが分かる。それ以外ではグラフ下の中で伸びているものに教養娯楽費、被服及び履物が伸びが著しい。

グラフの食料費の内訳を以下に列挙する。

米、パン、めん類、他の穀類、生鮮魚介、塩干魚介、魚肉練製品、他の魚介加工品、生鮮肉、加工肉、牛乳、乳製品、卵、生鮮野菜、乾物・海藻、大豆加工品、他の野菜・海藻加工品、生鮮果物、果物加工品、油脂、調味料、菓子類、主食的調理食品、他の調理食品、茶類、コーヒー・ココア、他の飲料、一般外食、学校給食

このグラフで特徴的なのは一般外食が1991年に向かって一貫して急成長していることだ。1965年と比較して11倍以上に上昇している。もう一つ特徴的なのが、生鮮野菜、生鮮魚介、生鮮肉が揃って金額が大きく、伸びも大きい。とくに1970年代に一気に拡大し、1980年代からは横ばいで推移するという傾向になっている。もちろん冷蔵庫の普及が大きく貢献していると見られる。

5-2_1setai_shouhi1965-1991 [グラフ:日本の長期統計系列_第8章第20章家計20-1-b 1世帯当たり年平均1か月間の消費支出(全世帯)-全国,人口5万以上の市(昭和38年~平成19年)より作成]

5-3_1setai_hinmokubetu1965-1991 [グラフ:日本の長期統計系列_第8章第20章家計20-1-b 1世帯当たり年平均1か月間の消費支出(全世帯)-全国,人口5万以上の市(昭和38年~平成19年)より作成]

次に消費額の大きいのが「その他の消費支出」である。その他と言われても具体的によく分からないが、金額が大きいので無視できない。そこで項目を以下に列挙する。

理美容サービス、理美容用品、身の回り用品、たばこ、その他の諸雑費、こづかい(使途不明)、交際費、食料、家具・家事用品、被服及び履物、教養娯楽、他の物品サービス、贈与金、他の交際費、仕送り金。

金額が最も大きいのは交際費とこづかい(使途不明)で、両者とも同じように1991に向かって金額が急増してきた。交際費という分類は理解するのは難しいが、収支項目分類表では“贈答用金品及び接待用支出並びに職場・地域などにおける諸会費及び負担費。”と定義されている。こづかい(使途不明)では、旅行で遣ったものは旅費、贈答に遣ったものは贈答費となり、それ以外のこづかいが“こづかい(使途不明)”に入っている。とにかく細かいことは置いておいて、交際費とお小遣いが「その他の消費支出」では最も大きな支出だということである。それに次ぐのが贈与金である。これも良く分からないだろう。これは、せん別、香典、見舞金、謝礼金、祝儀、持参金、結納金、財産分与金などのことである。これがかなり大きな額であることも驚かれる人もいるだろう。似たような支出で“仕送り金”というものもあり、グラフの下の方に位置しているが増加傾向にある。仕送り金は、世帯外の者へ生活費+下宿料+家賃+教育費などの全部又は一部を継続的に補助するための現金支出のことである。贈与金とは別立てになっている。

いずれにしてもこの時代、外食化が進み、生鮮食品を好むようになり、人々の交際が非常に活発化してきたことは明らかだ。

5-4_1setai_sonotaShouhi1965-1991 [グラフ:日本の長期統計系列_第8章第20章家計20-1-b 1世帯当たり年平均1か月間の消費支出(全世帯)-全国,人口5万以上の市(昭和38年~平成19年)より作成]

ここで消費者物価指数を見ておく。言うまでもないと思うが、消費者物価指数について簡単に解説しておきたい。そもそも物価指数というのは、物価の動きをある時点と比べて比率のかたちで表した数値のことで、その中で企業間で取引される財の価格に焦点を当てた数値が企業物価指数,小売段階の財及びサービスの物価の動きを示す数値が消費者物価指数である。つまり我々消費者にとっては店で買う商品の値段が去年と比べて今年はどの位上がったのか、下がったのかを見る指標である。

グラフは2005年(平成17年)を100として、それ以前の物価がどのように推移してきたかを表したものである。全体の消費者物価指数は1970年代から1990年代に向かって急激に上昇している。最も数値が大きい家具・家事用品はバブル経済が始まる以前から上昇が激しく、バブル経済崩壊とともに急速に下降していった。同じように過去に2005年時点の数値を上回っていたものは、光熱・水道、教養・娯楽、被服及び履物、交通・通信などがある。一方、2005年を上回ることなく着実に上昇してきたものには、住居、教育がある。

5-5_shouhishabukka

[グラフ:総務省統計局消費者物価指数(全国,中分類別)(昭和30年~平成17年,昭和30年度~平成16年度)より作成]

○事業所の動向

東京オリンピック以降、消費支出で外食と交際費の額が飛躍的に増大したことに比例してサービス業の事業所数が急増している。戦後一貫して増加してきた卸小売業飲食業もさらに増えたものの1980年代半ば、つまりバブル経済が始まる前に事業所数の増加は頭打ちになる。データを見る限り、この時代の国内市場での有望な産業は流通業でありサービス業である。規模も大きく成長率もずば抜けて大きい。もちろんここでは製造業の海外への輸出は考えていない。

5-6_gyoushubetujigyosho1966-1991 [グラフ:日本の長期統計系列第6章企業活動6-6-a都道府県,産業大分類別事業所数及び従業者数-事業所数-(昭和26年~平成13年)より作成]