厚生労働省が作成している「毎月勤労統計調査」という調査に不正があったとして問題になっている。全数調査をすべきところをサンプル調査に代えて補正を行っていなかったということだ。全数調査をサンプル調査に変更するというのは、どの調査機関でも行われていることで、これ自身に問題はない。問題は調査方法の変更を公表せず、さらに補正もしていなかったことである。なぜこんなことをやったのか、現在国会で真相が追究されている。
さて、このような事件が起きたことは、ある意味データに対する関心を呼び覚ましたことであり、普段は誰も検証などしないデータの信頼性について調べなおすきっかけになったと思う。
今回は農林水産省が実施している「作物統計」の調査方法について整理してみる。作物統計とは、作物の生産に関する実態を明らかにするための統計で、戦後まもない1947年(昭和22年)に開始された歴史のある統計である。「面積調査」「作況調査」「被害調査」で構成されている。今回は米や麦、野菜、果物の収穫量の統計である「作況調査」の調査方法について確認する。
まずここで使われている調査手法は以下の二方法である。
1.職員又は統計調査員による実測調査並びに巡回・見積り
2.往復郵送調査又はオンライン調査
簡単に言うと、調査員が実際に現地に出向いてデータを記録する。調査票を郵送してデータを記入してもらう。インターネット上のホームページでデータを入力してもらう。この3つの方法でデータが集められている。
当然のことだがこの調査は全数調査ではない。決められた地点をサンプルに取る標本調査である。取られたデータから10a当たりの収量を算出し、それに作付面積を乗じて決定している。
10a当たり収穫量×全国の作付面積=全収穫量
作況調査は米や麦、豆類等と果樹、野菜、花きに分かれている。順番に調査方法を分かりやすく整理してみる。
■作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)
【調査対象】
・水稲:水稲が栽培されている土地
・てんさい:製糖会社
・さとうきび:製糖会社、製糖工場等
・茶:荒茶工場
・上記以外:調査対象作物を取り扱っている全ての農協等の関係団体及び調査対象作物を販売目的で作付けし、関係団体等以外に出荷した農林業経営体
ここから無作為に抽出した経営体を対象とする。
【調査時期】
(収穫量調査)
毎年収穫期を調査期日とする。
【調査方法】
(収穫量調査)
水稲:職員又は統計調査員による実測調査並びに巡回・見積り。
てんさい:全ての製糖会社、製糖工場等に対する往復郵送調査又はオンライン調査。
さとうきび:全ての製糖会社、製糖工場等に対する往復郵送調査又はオンライン調査。
茶:往復郵送調査又はオンライン調査。
上記以外の調査対象作物については、関係団体に対する往復郵送調査又はオンライン調査及び標本経営体に対する往復郵送調査を行い、その結果を職員又は統計調査員による巡回及び職員による情報収集により補完している。
なお、オンライン調査とは、インターネットで「政府統計オンライン調査総合窓口」にアクセスして、電子調査票に回答入力したうえで送信するというもの。
■作況調査(果樹)
【調査対象】
主産県の農協等、農林業経営体から無作為に抽出。
(調査対象品目ごとに全国栽培面積のおおむね8割を占めるまでの上位都道府県。ただし、6年ごとに全国の区域を調査する。)
【調査時期】
(収穫量調査)
収穫・出荷終了時を調査期日とする。
【調査方法】
(収穫量調査)
往復郵送調査又はオンライン調査。
結果を職員又は統計調査員による巡回及び職員による情報収集により補完。
■作況調査(野菜)
【調査対象】
全国作付面積のおおむね80%を占めるまでの上位都道府県(関係団体及び標本経営体)。収穫量調査は6年ごとに全国の区域を調査する。
【調査時期】
収穫・出荷終了時を調査期日とする。
【調査方法】
往復郵送調査又はオンライン調査及び職員又は統計調査員による巡回・情報収集。
■作況調査(花き)
【調査対象】
全国の作付(収穫)面積のおおむね80%を占めるまでの上位都道府県(農協等、農林業経営体)。出荷量調査は6年ごとに全国の区域を調査する。
【調査時期】
当該年産の収穫・出荷の終了した毎年2月末日を調査期日とする。
【調査方法】
関係団体及び標本経営体に対する往復郵送調査又はオンライン調査及び職員又は統計調査員による巡回・情報収集。
以上が農産物の統計、作物統計の調査方法の概略である。米は特別扱いされていることは分かったが、それ以外の農産物の収穫量、出荷量については、基本的に、いわゆるアンケート調査でデータが収集されている。全数調査ではなく、標本調査でサンプルを抽出してそこから全体を推定していく調査である。オンライン調査が加わっているが、すべてオンラインになれば全数調査が可能になるのかもしれない。だからといって正確な回答を得られるという保証はないので、調査員による巡回・情報収集という作業を省くのは危険だろう。